がん末期で食べられない・飲めない|点滴は必要?家族が知っておきたいこと

「ほとんど食べられなくなってきた」
「水分も少ししか飲めていない」
「このままで大丈夫なんでしょうか」
「点滴をした方がいいんじゃないですか」
がん末期・終末期の方をご自宅で介護しているご家族から、このようなご相談をいただくことがあります。
昨日まで食べていた方が、数口しか食べなくなる。
コップ1杯の水分さえ飲めなくなってくる。
その姿をそばで見ているご家族が不安になるのは当然だと思います。
「食べないから弱っているのではないか」
「水分を入れなかったら脱水になってしまうのではないか」
「点滴をしないということは、何もしないということなのか」
そう考えてしまう方も少なくありません。
ただ、がん末期の点滴については、
「食べられないから点滴をする」
とも
「終末期だから点滴は必要ない」
とも、一律には決められません。
大切なのは、
なぜ食べられなくなっているのか。
今の病状はどの段階なのか。
点滴をすることで、ご本人にどのような利益が期待できるのか。
反対に、点滴によって苦痛が増える可能性はないのか。
そして、
ご本人は、どのように過ごしたいと思っているのか。
そこまで含めて考えることです。
この記事では、がん末期・終末期の方が食べられない、飲めない状態になったときの点滴について、在宅療養の視点からお伝えします。
がん末期で「食べられない」理由は一つではありません
まず知っておいていただきたいのは、
食べられなくなったからといって、すべてを「がん末期だから仕方がない」と考えてはいけないということです。
がんの進行に伴って食欲が低下することはあります。しかし、それ以外にも、
吐き気や嘔吐
便秘
お腹の張り
口内炎や口腔内の痛み
口の乾燥
味覚やにおいの変化
飲み込みにくさ
痛み
息苦しさ
強い倦怠感
薬の影響
不安や気分の落ち込み
消化管の通過障害
意識状態の変化
など、さまざまな原因があります。
いくつかの原因が重なっていることも珍しくありません。
がん悪液質によって食欲や筋肉量が低下している場合もあります。
一方で、便秘や吐き気、口腔内のトラブル、薬の影響など、対応することで少し楽になったり、食べられる量が増えたりする原因もあります。
だから訪問看護では、
「何ml飲めましたか」
「何割食べましたか」
という数字だけを見るのではありません。
吐き気はないか。
口の中は痛くないか。
便は出ているか。
飲み込むときにむせていないか。
お腹は張っていないか。
痛みや息苦しさはどうか。
ご本人は食べたいと思っているのか、それとも食べること自体がつらいのか。
そうしたところまで確認します。
食べられない原因を考えることが、まず最初です。
病状が進むと、食事や水分が自然に減ってくることもあります
がんがかなり進行すると、体の状態そのものが変わってきます。
活動量が減り、眠っている時間が長くなり、食欲も少しずつ低下していく。
以前好きだったものを勧めても、「いらない」と言われる。
一口、二口で「もういい」と言われる。
水分も、一度にたくさん飲めなくなってくる。
こうした変化は、最期が近づく過程の中でみられることがあります。
特に高度ながん悪液質では、単純に「食べる量が少ないから痩せる」というだけではなく、がんに伴う代謝の変化が関係しています。
そのため、病状がかなり進んだ時期には、以前と同じ量の栄養を入れれば元の体力に戻る、という単純な話ではなくなってきます。
ESMOのガイドラインでも、終末期に近づくほど栄養介入の目的を、体重や栄養状態の回復から、口渇や食事に伴う苦痛を和らげることへ移していく考え方が示されています。
ただし、ここでも注意が必要です。
「食べなくなった=もう最期だから何もしなくていい」ではありません。
急に食べられなくなったのであれば、治療できる原因が隠れていることもあります。
その方の病状やこれまでの経過を知っている医師・看護師が状態を確認したうえで判断することが大切です。
「食べられないなら点滴をした方がいい」とは限りません
ご家族から、
「ご飯が食べられないなら、その分を点滴で入れてあげたい」
と言われることがあります。
この気持ちは、私たちもよく分かります。
食べることは、生きることと強く結びついています。
家族にとっては、
「何かしてあげたい」
「少しでも体力をつけてほしい」
「このまま何も入らないのを見ているのがつらい」
という気持ちがあります。
ただ、ここで一つ知っておいてほしいことがあります。
一般的に在宅で行われる補液と、食事を取ることは、同じではありません。
末梢静脈から行う一般的な点滴は、主に水分や電解質などを補う目的で使用されます。
点滴の内容によって糖分なども含まれますが、
通常の補液をしたから、食事一食分、二食分の栄養がそのまま補えるというものではありません。
一方で、中心静脈栄養など、高いエネルギーを投与する方法もあります。
しかし、それもすべてのがん末期の方に行う治療ではありません。
病状、予測される経過、消化管の状態、活動性、合併症、ご本人の希望などを踏まえて判断します。
「食べられない」
という一つの状態だけで、点滴の必要性は決められないのです。
では、がん末期の点滴は何のためにするのでしょうか
ここはとても大切なところです。
点滴を考えるときは、
「点滴をするか、しないか」から話を始めるのではなく、「何を目的として点滴をするのか」を先に考える必要があります。
たとえば、
急な嘔吐や発熱などがあり、一時的に脱水が進んでいる。
一時的に飲めない状態だが、回復する可能性がある。
脱水が関係していると思われる症状がある。
点滴から投与する必要のある薬剤がある。
経口摂取が難しい原因について治療しており、その間の補液が必要。
このような場合には、点滴が役立つことがあります。
NICEでは、口から十分に水分を取れず、口渇やせん妄など脱水と関連する苦痛が考えられる場合、医学的水分補給を一定期間試して効果を確認するという考え方も示されています。効果が認められれば継続し、体液過剰などの不利益がみられれば減量・中止を検討します。
つまり、
点滴は「やるか、やらないか」を最初から固定するものではありません。
一度始めて、状態を見ることもあります。
量を減らすこともあります。
必要がなくなれば終了することもあります。
反対に、これまで点滴をしていなかった方でも、状態が変われば始めることがあります。
その時々の状態を見ながら考えていくものです。
点滴を増やすことで、かえってつらくなることもあります
ここが、がん末期の点滴を考える難しさです。
食事も水分も取れていない。
だから、
「水分だけでもたくさん入れた方がいいのでは」
と思うかもしれません。
しかし、病状が進行すると、入れた水分を以前と同じように体の中で処理できなくなることがあります。
その場合、
手足や顔のむくみ
胸水
腹水
呼吸の苦しさ
痰や気道分泌物の増加
点滴部位の腫れや痛み
頻尿による負担
などにつながる可能性があります。
日本緩和医療学会のガイドラインでも、終末期の輸液によって胸水・腹水・浮腫・気道分泌などの苦痛が悪化する可能性があることが示されています。
だから、
「入らない分をそのまま点滴で足す」という考え方ではなく、今の体がどのくらいの水分を受け止められるのかを見ることが必要になります。
訪問看護でも、
食事量や水分量だけでなく、
尿量。
むくみ。
呼吸状態。
痰の増え方。
お腹の張り。
胸水や腹水による症状。
意識状態。
点滴を始めてから本人が楽になったのか。
逆につらくなっていないか。
こうした変化を確認します。
点滴をすれば「口の渇き」が必ず楽になるわけではありません
これも、ご家族には意外に思われることがあります。
「水分が取れていないから口が乾いている。なら点滴をすれば口の渇きも良くなるのでは?」
そう考えるのは自然です。
しかし、終末期の口の渇きや口腔内の乾燥は、脱水だけで起こるわけではありません。
口呼吸、口内炎、薬剤、酸素療法、唾液分泌の低下など、さまざまな原因があります。
日本緩和医療学会のガイドラインでは、生命予後が1~2週間程度と考えられ、口から水分を取れる終末期がん患者の口渇に対して、口腔ケアなどの看護ケアを行うことを推奨しています。
一方、脱水がある場合には、状態によって補液を検討するとしています。
ですから、口が乾いているときには、点滴だけを考えるのではなく、
口の中をきれいにする。
口腔内を保湿する。
安全に飲み込める方なら少量ずつ水分を取る。
氷片などを利用する。
唇を保湿する。
といったケアも非常に大切です。
飲み込みが悪くなっている方に無理に水分を勧めると、むせや誤嚥につながることもあるため、その方に合った方法を考えます。
「何とか食べて」は、ご本人にはつらいこともあります
家族にとって、ここが一番難しいのかもしれません。
一生懸命つくった食事を、
「いらない」と言われる。
好きだったものを買ってきても、二口しか食べない。
「これだけでも食べて」
「もう一口だけ」
と言いたくなる。
それは、食べさせたいのではなく、
生きていてほしいからだと思います。
一方で、病状が進み、食べること自体が負担になっている方にとっては、「食べなければ」ということが苦痛になることもあります。
国立がん研究センターでも、食欲のない本人に食べることを強く勧めることが心理的な負担になる場合があるとしています。
食べられるのであれば、三食にこだわらなくても構いません。
プリンを一口。
アイスを少し。
果物を一切れ。
好きな飲み物を少し。
「栄養として十分か」だけではなく、ご本人が「おいしい」と感じられることも大切です。
今日は食べられなくても、明日は少し欲しがるかもしれません。
逆に、昨日食べられたものが今日はつらいこともあります。
その日の体調を見ながらで大丈夫です。
食べられなくなったことは、ご家族の介護が足りなかったからではありません
在宅で看取りに関わっていると、
「もっと食べさせてあげればよかったんでしょうか」
「私がちゃんと水分を取らせられなかったからでしょうか」
と話されるご家族がおられます。
しかし、がんが進行した時期の食事量や水分量の低下は、病気そのものや悪液質、体の代謝の変化などによって起こることがあります。
ご家族が頑張れば、必ず食べられるようになるものではありません。
食事を作ることだけが、家族にできることでもありません。
口をきれいにする。
唇を潤す。
食べたいと言ったときに好きなものを準備する。
楽な姿勢を整える。
手を握る。
いつものように話しかける。
同じ部屋で過ごす。
そうした時間も、大切なケアです。
私たちは、訪問看護は本人だけを看るものではないと考えています。
食べられなくなっていく本人をそばで見ているご家族の不安や迷いまで含めて支える。
それも訪問看護の役割です。
「点滴をしない」と決めることと、「何もしない」ことは違います
点滴について相談していると、
「点滴をやめるのは、何もしないみたいで怖い」
と話されることがあります。
ここも、とても大切なところです。
点滴を減らしたり、行わなかったりする場合でも、
何もしないわけではありません。
痛みを確認する。
息苦しさを確認する。
痰の状態を見る。
口腔ケアをする。
体の向きを変える。
排泄を整える。
皮膚を清潔にする。
眠れているかを見る。
不安やせん妄がないかを見る。
医療用麻薬などの薬を調整する。
ご家族に、今起きている変化を説明する。
そして、夜間や休日も含めて、何かあったときに相談できるようにする。
終末期では、こうした一つひとつのケアがとても大切になります。
治療の量が減ることと、ケアが減ることは同じではありません。
むしろ病状が進んだときほど、看護が必要になる場面は増えていきます。
点滴を続けることが安心につながる場合もあります
一方で、「点滴を減らす方がいい」と最初から決める必要もありません。
点滴をしていることそのものが、ご本人やご家族の安心につながっている場合もあります。
また、脱水による症状の改善が期待できる場合や、一時的に水分摂取が難しくなっている場合など、医学的に点滴を行う意味があることもあります。
だからこそ大切なのは、
医療者側の価値観だけで「これはいらない」と決めないことです。
反対に、ご家族の不安だけを理由に、本人に負担が出ている点滴をそのまま続けることが必ずしも良いとは限りません。
ご本人の状態。
ご本人の希望。
ご家族の思い。
点滴によって期待できること。
点滴によって起こる可能性のある負担。
その全てを一緒に考えていきます。
2023年のCochraneレビューでは、終末期の医学的水分補給がQOLや生存期間を改善するかどうかについて、現時点では十分な質のエビデンスがなく、明確な結論を出せないとされています。
だから、
「点滴をすれば長く生きられる」
とも、
「点滴には意味がない」
とも言い切れません。
その方ごとに考える必要があります。
私たちが点滴についてご家族と一緒に考えるとき
私たちが大切にしたいのは、
「点滴をするか、しないか」
だけで終わらせないことです。
もし自分の家族だったら。
この点滴は、何のためにしているのか知りたいと思います。
続けたら何が期待できるのか。
減らしたらどうなるのか。
本人は苦しくないのか。
今後どうなっていく可能性があるのか。
そこを説明してもらったうえで考えたいと思います。
ROKUが大切にしている、
「自分の家族も看たいと思える看護を、地域に届ける」
という考え方は、こういう場面でも同じです。
医療者にとって「よくある終末期の変化」であっても、ご家族にとっては、大切な人に初めて起きていることかもしれません。
分からなくて当然です。
迷って当然です。
だから、
「点滴はいりません」
「もう食べなくても大丈夫です」
という説明だけで終わらせるのではなく、
なぜそう考えるのか。
今、体の中で何が起きていると考えられるのか。
これからどんな変化が起こる可能性があるのか。
何が起きたら連絡してほしいのか。
そこまで伝えることが必要だと考えています。
点滴について迷ったら、こんなことを医師・看護師に聞いてみてください
点滴について迷ったとき、
「点滴した方がいいですか?」
だけではなく、次のように聞いてみると整理しやすくなります。
今、食べたり飲んだりできない一番の原因は何でしょうか
改善できる原因はありますか
今の点滴は何を目的にしていますか
点滴をすると、本人にどんな良いことが期待できますか
逆に、どんな負担が起こる可能性がありますか
点滴をしなかった場合、どのような変化が考えられますか
一度やってみて、効果を見てから考えることはできますか
量を少なくする選択肢はありますか
本人の口の渇きや苦しさは、別の方法で楽にできますか
一度決めた方針を、最後まで変えてはいけないわけではありません。
病状は変わります。
本人の気持ちも変わるかもしれません。
家族の気持ちも変わります。
その都度、話し合っていいのです。
自宅でも点滴を続けられる場合があります
「点滴をしているから退院できない」
と思われている方もおられますが、必ずしもそうではありません。
主治医の指示や在宅医療の体制を整えることで、自宅で点滴を継続できる場合があります。
末梢静脈からの点滴だけでなく、CVポートやPICCなどが留置されている方についても、状態や指示内容に応じて訪問看護で管理を行うことがあります。
大切なのは、
点滴があるから自宅に帰れない、と最初からあきらめないこと。
一方で、
CVポートが入っているから、最後まで点滴を続けなければならないわけでもありません。
医療処置そのものではなく、
その医療処置が今のご本人にとってどのような意味を持っているのか。
そこを考えます。
ROKUでは、食事・水分・点滴だけでなく「その人全体」をみます
がん末期で食事や水分が減ってきた場合、ROKU訪問看護ステーションでは、
食事量、水分量だけでなく、
尿量。
便の状態。
吐き気や嘔吐。
口腔内の状態。
飲み込み。
痛み。
呼吸状態。
痰。
浮腫。
腹水や胸水に伴う症状。
眠気や意識状態。
せん妄。
本人の表情。
ご本人の希望。
そして、ご家族が何を不安に感じているのか。
こうしたことを一緒に確認していきます。
必要があれば主治医へ状態を報告し、点滴量や薬剤、今後の方針について相談します。
在宅療養では、今日と昨日で状態が違う。
朝と夜で違う。
そんなことも珍しくありません。
だからこそ、一度決めた医療をそのまま続けるだけではなく、今の本人に合っているのかを見続けることが大切です。
「家で過ごしたい」を、食べられなくなったからといってあきらめない
食事が取れなくなった。
水分も減ってきた。
点滴が必要になった。
こうした変化があると、
「もう自宅では難しいのでは」と考えることがあります。
もちろん、病状によっては入院が必要になる場合もあります。
ご本人やご家族が、病院で過ごすことを希望されることもあります。
それも大切な選択です。
ただ、
食べられなくなったことだけで、自宅で過ごす選択肢がなくなるわけではありません。
必要な医療を整える。
苦痛を和らげる。
ご家族へこれから起こりうる変化を説明する。
夜間・休日に相談できる体制をつくる。
訪問診療、薬局、ケアマネジャーなどと連携する。
そうすることで、自宅で過ごせる場合があります。
ROKUが大切にしているのは、
「自宅で過ごしたい」という想いを、簡単にあきらめないこと。
そして、
自分の大切な家族にも受けてほしいと思える看護をすることです。
点滴をすることが、その人を支えることもあります。
点滴を減らすことが、その人を楽にすることもあります。
食べられるものを少しだけ楽しむことが、その日の大切な時間になることもあります。
答えは一つではありません。
だからこそ、ご本人とご家族だけで抱え込まず、一緒に考えていきたいと思っています。
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→「CVポートをつけたまま退院|自宅での点滴・管理と訪問看護の役割」
→「PCAポンプをつけたまま退院|がん末期の痛みを自宅で管理するための訪問看護」
参考文献・参考資料
・日本緩和医療学会「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」
・Buchan EJ, et al. Medically assisted hydration for adults receiving palliative care. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023.
・NICE. Care of dying adults in the last days of life(NG31)
・Arends J, et al. Cancer cachexia in adult patients: ESMO Clinical Practice Guidelines. ESMO Open. 2021.
・Crawford GB, et al. Care of the adult cancer patient at the end of life: ESMO Clinical Practice Guidelines. ESMO Open. 2021.
・国立がん研究センター がん情報サービス「食欲がない・食欲不振」「がんと食事」
執筆者
宮本 真一郎ROKU訪問看護ステーション看護師/株式会社UGATSU 代表取締役
救急・急性期医療、手術室、離島医療などを経験後、訪問看護に従事。がん末期・終末期、医療依存度の高い方、退院直後の方などの在宅療養支援に携わっています。
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の患者様の診断や治療方針を示すものではありません。食事・水分摂取量の低下や点滴の必要性については、病状によって判断が異なります。主治医・訪問看護師などへご相談ください。






