気管切開のまま退院|自宅での吸引・カニューレ管理と訪問看護の役割
更新日:8月31日

入院中に気管切開を行い、そのまま気管カニューレを装着した状態で退院することがあります。
退院の話が出ると、ご本人やご家族から、
「気管切開をしたまま、本当に家に帰れるの?」
「痰の吸引を家族だけでできるのだろうか」
「カニューレが抜けたらどうしたらいい?」
「夜中に呼吸が苦しくなったらどうする?」
「気管切開があると、ずっと病院や施設で過ごさないといけないの?」
といった不安の声を聞くことがあります。
気管切開をしていても、必要な医療・介護体制を整えることで、自宅で生活することは可能です。
大切なのは、「気管切開があるから自宅では無理」と最初から決めることではありません。
退院前から、主治医・病院・訪問診療・訪問看護・ケアマネジャーなどが連携し、
自宅で安全に生活するためには何が必要なのか
を一つずつ整理していくことが重要です。
この記事では、気管切開をしたまま退院される方とご家族に向けて、自宅で気を付けたいことや、訪問看護でできる支援について解説します。
気管切開とは?
気管切開とは、首の前側から気管に穴を開け、呼吸の通り道を確保する処置です。
作られた気管切開孔には、通常「気管カニューレ」と呼ばれる管を挿入します。
気管切開が必要になる理由は一人ひとり異なりますが、
痰を自分で十分に出すことが難しい
上気道が狭くなっている
長期間の呼吸管理が必要
人工呼吸器を使用する必要がある
ALSなどの神経・筋疾患がある
重度の障がいや呼吸機能の低下がある
手術や病気の影響で気道確保が必要
などの場合に行われることがあります。
気管切開をしたからといって、必ず人工呼吸器が必要になるわけではありません。
気管切開のみで自分自身で呼吸している方もいれば、気管切開部から人工呼吸器を使用している方もいます。
気管切開をしたまま自宅に帰ることはできます
気管切開をしている状態でも、病状が安定し、自宅で必要なケアや緊急時の対応方法が整理されていれば、在宅療養を行うことができます。
実際の在宅生活では、
気管切開部の観察
気管カニューレの状態確認
痰の吸引
呼吸状態の観察
SpO2の確認
加湿
カニューレ周囲の皮膚ケア
必要な医療機器や物品の管理
緊急時の対応
などが必要になることがあります。
病院では医師や看護師がすぐ近くにいます。
一方、自宅ではご本人やご家族が日常生活を送る場所で医療的なケアを続けていかなければなりません。
そのため、退院前から自宅での生活を具体的に想定して準備しておくことが大切です。
自宅で気を付けたい7つのポイント
1.呼吸状態を普段から確認する
気管切開をしている方では、まず「いつもの呼吸状態」を知っておくことが重要です。
例えば、
呼吸の速さ
呼吸の深さ
胸の動き
顔色
SpO2
痰の量
痰の色や粘り
呼吸音
意識状態
本人の表情や反応
などを確認します。
数値だけではなく、
「今日はいつもより呼吸が速い」
「いつもより痰が多い」
「痰が黄色くなってきた」
「少し元気がない」
「いつもより眠そう」
といった変化も大切なサインです。
在宅療養では、こうした小さな変化を早めに捉えることが、状態悪化の早期発見につながります。
2.痰が出せない場合は吸引が必要になることがあります
気管切開をしている方では、痰を自力で十分に出せないことがあります。
痰が気管内にたまると、
呼吸がしにくくなる
ゴロゴロという呼吸音がする
SpO2が低下する
咳が増える
苦しそうな表情になる
などの変化がみられることがあります。
そのため、必要な方には気管内吸引を行います。
吸引の回数は、「1日何回」と一律に決められるものではありません。
痰の量や状態、咳をする力、呼吸状態などを見ながら判断します。
ご家族が吸引を行う場合には、退院前に病院で方法について十分な説明や練習を受けておくことが大切です。
「家では実際にどのタイミングで吸引すればいいのか分からない」
ということもあります。
訪問看護では、自宅での呼吸状態や痰の状態を確認しながら、ご本人に合ったケア方法を一緒に整理していきます。
自宅での喀痰吸引の方法や、吸引が必要な方への訪問看護については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
3.気管切開部の皮膚を確認する
気管カニューレの周囲には、
赤み
腫れ
出血
痛み
浸出液
膿
皮膚のただれ
肉芽
などがみられることがあります。
カニューレを固定するバンドが強すぎたり、カニューレが動いたりすることで皮膚に負担がかかることもあります。
訪問看護では、気管切開孔だけを見るのではなく、周囲の皮膚やカニューレの固定状態なども確認します。
異常がみられる場合には主治医へ報告し、必要な処置について相談します。
4.痰が固くならないようにすることも大切です
通常、鼻や口から吸った空気は、身体の中に入るまでに加温・加湿されます。
しかし気管切開では、空気が気管切開孔から直接気管へ入るため、痰が乾燥して粘りやすくなることがあります。
痰が固くなると、吸引しにくくなったり、気管カニューレの中に痰が付着したりすることがあります。
そのため、患者さんの状態に合わせて、
医師から指示された加湿方法
室内環境
水分摂取
痰の性状
などを確認します。
加湿方法や医療機器の使用方法は患者さんによって異なるため、退院時に病院や主治医から説明を受けた方法で行うことが基本です。
5.気管カニューレがきちんと固定されているか確認する
気管カニューレは、首の固定バンドなどによって適切な位置に保たれています。
固定が緩すぎるとカニューレが動きやすくなり、反対に強すぎると皮膚への負担になります。
寝返りや着替え、車椅子への移乗、清拭や入浴などでは、カニューレや人工呼吸器の回路などが引っ張られないよう注意が必要です。
カフ付きカニューレを使用している方では、カフの管理が必要になる場合もあります。
カニューレやカフを自己判断で調整するのではなく、主治医や訪問看護師から説明された方法で管理してください。
6.入浴・清拭では気管切開孔への水の入り込みに注意する
気管切開をしていても、状態に応じて入浴やシャワー、清拭などを行うことはできます。
ただし、気管切開孔から水が入ると気道へ直接流れ込む可能性があります。
そのため、
どの方法で身体を洗うのか
気管切開部をどのように保護するのか
誰が介助するのか
などを事前に確認しておくことが大切です。
「気管切開があるからお風呂には入れない」と一律に考えるのではなく、患者さんの状態に合わせて安全な方法を考えていきます。
7.緊急時の対応を退院前に決めておく
気管切開をして自宅で生活する場合、特に重要なのが緊急時への備えです。
例えば、
気管カニューレが抜けた
カニューレが詰まった可能性がある
急に呼吸が苦しくなった
SpO2が大きく低下した
顔色が悪い
意識状態がいつもと違う
痰が吸引できない
出血が多い
などです。
特に、強い呼吸困難や意識状態の悪化、チアノーゼなど生命に関わる可能性がある場合には、速やかな対応が必要になります。
カニューレが抜けた場合の対応方法も、気管切開をしてからの期間や患者さんの状態、使用しているカニューレなどによって異なります。
自己判断で無理にカニューレを挿入するのではなく、退院前に病院から指示された緊急時の対応方法を確認しておくことが重要です。
また、
「まずどこへ連絡するのか」
「どの状態になれば救急車を呼ぶのか」
「夜間や休日は誰へ相談するのか」
まで具体的に決めておくと安心です。
気管切開がある方に訪問看護でできること
気管切開をしている方への訪問看護は、単に「吸引をする」だけではありません。
ROKU訪問看護ステーションでは、主治医の指示やご本人の状態に応じて、
呼吸状態の観察
呼吸数、SpO2、呼吸音、胸の動き、顔色、意識状態などを確認します。
痰の状態の確認・吸引
痰の量、色、粘り、吸引の必要性などを確認し、必要に応じて吸引を行います。
気管切開部のケア
気管切開孔や周囲の皮膚、出血、浸出液、肉芽などを確認し、必要な清潔ケアを行います。
気管カニューレの状態確認
固定状態やカニューレの位置、使用状況などを確認します。
気管カニューレの交換等については、主治医の指示や患者さんの状態、支援体制に基づいて対応・連携します。
ご家族への支援
「痰が増えたけれど大丈夫?」
「どのくらい吸引すればいい?」
「今日はいつもより呼吸が速い気がする」
「カニューレの周りが赤くなっている」
など、ご家族が日々感じる不安について一緒に確認します。
主治医・病院との連携
状態に変化がある場合には主治医へ報告し、必要に応じて治療や受診について相談します。
気管切開があるからといって「家族だけで全部する」必要はありません
気管切開をした状態で退院すると聞くと、
「家族が24時間ずっと吸引や呼吸状態を見ないといけないのでは?」
と不安になる方もおられます。
しかし、在宅療養は家族だけで支えるものではありません。
患者さんの状態に応じて、
訪問診療
訪問看護
ケアマネジャー
訪問介護
訪問リハビリ
福祉用具
障害福祉サービス
医療機器業者
病院
などが連携しながら支援体制を作ります。
ROKUが大切にしているのは、
本人の「家に帰りたい」という想いだけを押し通すことでも、ご家族だけに負担を背負ってもらうことでもありません。
ご本人がどこで、どのように過ごしたいのか。
ご家族は何を不安に感じているのか。
その両方を確認しながら、在宅で生活するために必要な支援を一緒に考えていくことが大切だと考えています。
退院当日ではなく「退院前」から訪問看護へご相談ください
気管切開がある方の退院支援では、退院前の準備が非常に重要です。
可能であれば、退院日が決まってからではなく、**「自宅へ帰ることを検討し始めた段階」**から訪問看護へ相談してください。
退院前に、
自宅で必要になる医療処置
吸引の回数や方法
気管カニューレの種類
人工呼吸器の有無
酸素療法の有無
必要な医療機器
緊急時の対応
家族が対応できる範囲
訪問看護の回数
夜間・休日の連絡方法
訪問診療医との連携
必要な介護・福祉サービス
などを確認します。
必要に応じて退院前カンファレンスなどで病院と情報を共有し、自宅での生活を具体的にイメージしながら準備していきます。
病院でできていたことが、そのまま自宅でもできるとは限りません。
だからこそ、病院で行っていた医療を単純に自宅へ持ってくるのではなく、その人の生活に合わせて在宅療養の形を作ることが大切です。
気管切開があっても、その人らしい生活は続きます
在宅療養では、気管切開の管理だけをしていればよいわけではありません。
食事をどうするのか。
家族とどのように会話するのか。
ベッドから起きたいのか。
車椅子に乗りたいのか。
外へ出たいのか。
お風呂に入りたいのか。
どこで、誰と、どのように過ごしたいのか。
そうした生活そのものを考えることも訪問看護の役割です。
気管切開の状態によっては発声や嚥下に影響が出ることもあり、スピーチバルブの使用や食事について専門的な評価が必要になる場合もあります。
必要に応じて主治医やリハビリ職などとも連携しながら、その人が大切にしている生活をできるだけ続けられる方法を考えていきます。
大阪市浪速区周辺で気管切開のある方の退院をご検討の方へ
ROKU訪問看護ステーションでは、大阪市浪速区・大国町を中心に、医療処置が必要な方や、難病・重度障がいのある方、退院直後で医療的な支援が必要な方の在宅療養を支えています。
気管切開をしている方の退院について、
「在宅で受けてもらえる訪問看護が見つからない」
「吸引が必要なので家族が不安」
「夜間の急変が心配」
「人工呼吸器も使用している」
「退院前から訪問看護と相談したい」
という場合も、まずはご相談ください。
私たちが大切にしているのは、
「気管切開があるから自宅では難しい」と、そこで選択肢を閉じないことです。
自分の家族なら、どうしてほしいか。
本人はどこで過ごしたいのか。
家族は何を不安に感じているのか。
そして、自宅で過ごすために何が必要なのか。
主治医・病院・ケアマネジャー・介護事業所などと連携しながら、一緒に考えていきます。
自宅で過ごしたい想いを、あきらめない。
ROKU訪問看護ステーションは、医療だけではなく、ご本人とご家族の「暮らし」と「人生」に寄り添いながら在宅療養を支えていきます。
執筆者:宮本 真一郎
看護師。救急・急性期・手術室・離島医療を経験後、訪問看護に約8年間従事。がん末期・難病・医療依存度の高い方への訪問看護、在宅看取り、ご家族への支援に携わる。ROKU訪問看護ステーション代表。







コメント